ハードなテレビ美術の仕事をしながらの美校時代
美校時代は学費と生活費に充てるためにテレビ局で仕事をしていました。ドラマなどの小道具を配置する美術進行の担当です。当時は、ずっと学校と仕事の往復でしたよ。普通、美大生は、学生時代は絵画制作に打ち込むことができるのですが、画家を志すなら本当は卒業してからが勝負だと思うのですよ。でも、多くの人が卒業してから、社会生活と折り合いがつかず、絵が描けなくなってしまうこともあります。自分の場合は、学生時代にかなり働いて鍛えられていたので、卒業と同時に制作に移行しやすかったと思います。テレビ局に就職が決まっていましたが、テレビの仕事は常に新しいセンスや概念が求められて、これまでの経験を引きずっていられない世界です。年数をかけて技術を積み重ね研鑽していく仕事とは違って、私には馴染みませんでした。絵をもっと描きたかったので、結局テレビの仕事は長くは続けず新聞社で働くようになりました。絵画制作のテーマに影響を与えたロシアへの旅
文化使節団の一員としてロシアに行ったときのこと。当時はゴルバチョフ時代ですが、現地の人々の暮らしぶりは貧しく、みな素朴でした。トマト一個をこぼさないように大切に食べているところを見て、ものすごく感動した覚えがあります。つつましく、ものを大切にする、人間関係にも人情があり互いが助け合う、そんな世界でした。それまで、私は裸婦像を中心とする人物画を多く描いておりましたが、その旅がきっかけで「人間の本質的な在り方・生き方」がその後の私の絵画制作のテーマとなりました。忘れていた人間の豊かさを感じさせるルーマニアの地
毎年、二週間くらいの滞在で農家を泊まり歩きながら、ルーマニアの北部を訪れます。そこには広い農耕地があって農産物が豊富にある。絵のように、永遠に広がる土地に太陽がさんさんと照ってからっとした光景が実在します。また、そこに住む人々の生活も大地に根差しているというか、なんとも落ち着きがあるように見えます。大地の恵みを受けて、どっしりとしていて豊かな印象。そこに人間の本質的な豊かさを感じます。それらが私の視野に入ってくるということは、自分の中に欠けている価値観だと思うのです。お金があることによって、失ってしまう何かが感じられます。アースカラーは大地の色
大作を描く場合は、スピード感をもって早いタッチで絵筆を動かしながら描きます。それに比べて小品はゆっくりと細かく描きます。背景など、例えば近くの牧草地と遠くのトウモロコシ畑の植物の質感の違いを出すためにじっくり描き込みます。色は土っぽい、アースカラーをよく使います。大地の色である茶色や暖色系の色です。わずかにブルーや紫を使ってメリハリを出すこともあります。時間をかけることで、何が描きたかったが分かってくる
このテーマについては、もうしばらく続けていきたいと考えています。私は一つのテーマに10年以上かけます。長くやらないと完成度が高くならないですし、何度も試行錯誤をすることで本質にたどり着くことができます。ですから、今後も、地べたに立ち目線を低くして、本質的なものをじっくり見つめ、追究していきたいですね。
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