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現代の美術界で活躍される先生方の貴重なお話をお届けする「現代作家の軌跡訪問」インタビュー第2弾は、骨太で格調高い世界観で描かれた人物・風景画で知られる、日本画家:松本俊喬さんを迎え、自分自身の作品についてやこれからの自身における作品への展望など、貴重なお話をお届け致します。

プロフィール
1964年 東京藝術大学日本画科卒業。1967年 法隆寺金堂壁画再現模写に従事。1971年 シェル美術賞展/佳作。1972年エル・サルバドルで個展/ 政府招待。1973年 グループ:メガロパ結成。1974年 第1回創画展出品(創画会賞/77、79、85)。女子美術大学教授、日本美術家連盟会員。
2004.11/15よりART BOX GALLERYにて個展

日本画自体ではなく、日本画の材料に惹かれていた
油絵や日本画に親しんだのが割と早い方だったと思います。実際に日本画として作品にしたのは高校生くらいの時でしたが、画風というよりはむしろ日本画の材料や材質に惹かれていました。岩を砕いた顔料は油絵具のように光らず、もう材質そのものが気に入ってしまったんですね。それが大学へ進学して「日本画」を専攻するきっかけになったんだと思います。
中米エル・サルバドルの新聞社での仕事。やはり日本画がやりたい
大学を卒業して一年はフラフラしていました。将来何になろうかということも当然考えていましたが、その頃ちょうどエル・サルバドルの新聞社の人が仕事をしないかと声をかけてきたので、スペイン語もままならないまま中米に行き、そこで一年間働くことにしました。メキシコにも近い国でしたので、*タマヨの作品や*シケイロスの壁画なども見ました。それでやはり日本画がやりたいと思うようになりました。中南米の絵はとても魅力的でしたね。自分では気づいていないのですが、画風に変化が現われはじめると、それが影響しているのではと言われたりしましたね。帰国後に参加したのが、あの法隆寺金堂壁画再現模写だった
帰国した時に、燃えてしまった法隆寺金堂壁画を再現させる朝日新聞社主催のプロジェクトの話があったので参加することにしました。何班かに別れて、そこでは顔料を作るところから始まったのですが、何しろすべて一からでしたので大きな経験でした。日本が一番失ってはならない国の財産でしたし、その焼けた跡は今も残っている(*一般の人は見ることができない)のですが、それを見るたびにあたらめて失火について残念に思いました。またそれと同時に素晴らしさが分かったというのもあります。技術的にも物を観察するといういい勉強になりました。密度の濃い一年間だったと思います。中米やアメリカ、そしてヨーロッパへ。そこにあった明るさと生命力
中米やアメリカ、オーストラリアに行くことはありましたが、ヨーロッパはつい最近まで行ったことがありませんでした。大学の研修で2001年に初めてヨーロッパへ渡ったんです。三ヶ月の間で十カ国ほど回りました。中米にいたことも幸いしてかスペインには前々から興味があり、スペインには一ヶ月ほど滞在していろいろな所を回りました。また、南フランスのニースやアルルは僕にとって最も居心地のよい場所でした。マティスの『ロザリオ礼拝堂』(晩年の有名な作品)は彩りが豊かで明るさを持ち、何よりそこには生命力があり、それを見て、ああいう性質を持った作品を描きたいと強く思いました。また、モチーフを広く持ちたいとも思いました。特徴のある骨太な画風は意識して作られたものではない
1980年代後半から作風ががらりと変わっているので、自分自身のスタイルを確立させるためにそうしたのではないか、何かの影響を受けたのではないかなどと言われますが、実際にそういった思索はありません。もちろん、中米の壁画などの影響は少なからずあるとは思いますが、僕自身キャンバスに向かう時に、あの画家の作品のようにあの色を使ってみようなどと思って描くことはまずありません。何度も壁にぶちあたり、それに向かいながら勉強していく。そしてある時ふと答えが出る。作品制作はそのようなことの繰り返しに思えます。制作をしている時にできる壁は自分の意図ですぐに打ち壊せるものではありませんしね。赤と緑、岩絵具と金箔、直線と曲線ー追求しているのは「対比の融合」
哲学を持っているわけではありませんが、コントラストというものに強い興味があります。例えば、僕の作品によく現れる赤と緑。これも反対色でどちらかと言えば強いもの同士です。それから金箔というのは金属ですよね。岩絵具は鉱物ですから、鉱物と金属という異質なもの組み合わせから生まれるハーモニーは大変興味深いものだと思います。また線にしてもそうですね。直線、曲線とありますが、僕は直線に対する曲線の重なりが好きなんです。なかなか線だけで正確に表現するところまではいきませんが、これからまだまだ模索していきたいと思っています。
記事内の注釈
ルフィーノ・タマヨ[1899〜1991]:メキシコ壁画運動の巨匠に続く世代のメキシコ近代絵画を代表する画家。
※ダビッド・アルファロ・シケイロス[1896〜1974]:ロスコ、リベラと並びメキシコ壁画運動の巨匠と呼ばれたメキシコの画家。シケイロスが中心となって結成された革命的な芸術家組合は、壁画運動の原動力となった。
※マティス作「ヴァンス・ロザリオ礼拝堂」:建物の設計、ステンドグラス、燭台など、すべてマティスのデザインで作られたロザリオ礼拝堂の真っ白な外壁には、マティス独特の太い線で母子像が描かれている

これまでの骨太なフォルムから一転、やわらかいフォルムを取り入れた新作を展示しています。作品一覧
壁(阿蘇火口) \294,000
これは僕の故郷でもある阿蘇山の火口壁の一角です。ロープーウェイで火口までは近付けるのですが、風圧によって立ち入れない時もあります。こういった火口壁がぐるっと一周いびつな形であって、生命力を感じます。

母子像 \294,000
これは今回の展示作品の中で色を出すのに最も悪戦苦闘した作品です。反対色をうまく融合させています。この作品では特に背景である赤を出すのに何度も試行錯誤しました。

ロンダ \252,000
スペインのロンダという街の風景画です。こんな岩崖の上に何軒もの家が連なっていて、そのコントラストがとても気に入りました。

松本俊喬作品集
松本俊喬の2002年までの傑作を収載した作品集。時代、地域、習慣を超えて力強く描く人々の群、荒々しくも輝きを放つ岩壁の生命が伝わる

現代日本の絵画vol.1/年鑑
現代日本を代表する画家100名を収載した年鑑作品集。日本画・洋画の多彩な表現をご鑑賞下さい。

人物もさることながら阿蘇山岳の風景や火口壁、またヨーロッパ取材で出会った風景が凝縮された松本俊喬さんの展示作品は、これまでの格調高い気質を失うことなく、対比するものの融合をとても楽しんでいるように思えます。その果てしない挑戦は、松本さんが岩絵具という材料に惹かれた時からすでに始まっていたのかもしれません。松本俊喬さんの新しいステージの幕開けを予感させる作品たちを是非ご鑑賞下さい。

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