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「現代日本の抽象」の刊行を記念し、二科会を中心に活躍する尾崎ゆき子さんをお招きしてお話を伺いました。<人間>という存在と真摯に向き合い、深い愛情の眼差しで30年間人物を描き続けている画家の貴重なお話をお届けいたします。

プロフィール
広島大学教育学部美術科卒業後、市内中学美術教師となる。1968年 二科展初入選。以後、 同展にて1990年特選、2001年会友賞。2003年 東京支部展/大賞、他受賞多数。個展9回。二科会会員、日本美術家連盟会員。
2006.11/13より現代日本の抽象出版を記念しART BOX GALLERYにて個展

結婚、出産で一度は中断した創作活動
大学を出た後、広島市内の中学で1年間美術教師をしていました。二科会会員でもあった当時の校長先生に薦められ、初めて出品した作品が入選してしまいました。とても嬉しかったのですが、その後すぐに結婚することになり、他県への引っ越し、そして出産などと忙しい日々が続き、それから結局10年ほどは家事育児に専念していました。その後、主人の転勤で移住、初めて都内に住んだのですが、地方在住時には距離的にも心理的にも遠く感じていた、二科展会場の上野が、以外と近いことにふと気付き、「これなら絵の搬入も楽かしら」などと思いつつ、なんとなくまた描きはじめた、というのが正直なところです。<顔>にこだわる理由4、5年前から顔にこだわって描いています。繊細で、つかみどころのない<人間>や<人の心>というものを形にしていければな、と思って。例えば、金メダルをとったスポーツ選手の、達成感と感動と自信に満ち溢れる晴々とした顔や、人生の荒波を超え、今は穏やかに微笑む慈悲深い老人の顔、そんな良い顔をたまに見ると、何か素晴らしいものを頂いたような、感謝したいような気持ちになります。また逆に、闇の部分というか、誰もが潜在的に隠し持っている醜い顔や、悪いものを抱えながらも、それをコントロールしつつ生きているような複雑さなどにも、同様に心惹かれます。人間って実に様々な側面を持っていますよね。今回の企画展で得たもの
抽象の小品たちのような作品に挑戦したのは今回初めてだったのですが、製作中とても楽しかったです。普段からマチエールに重きを置いていたり、自分なりに新しい技法を開発するのが好きなのですが、今回は和紙やスポンジや貝殻など多様な素材を駆使し、ビリビリ破ったり、ペタペタ貼ったり、色と形のバランスをあれこれ考え、非常に心地よい感覚に包まれながら作業させてもらいました。そういえば学生時代もデザインの授業が一番好きでしたね。<渾沌>を目指して
今後はもっと渾沌としたものを描いていきたいと思っています。今までの作品は、はっきりとしたものが多く、隙がないというのか、少々肩に力が入り過ぎている感じがするので、最近新しい作風に挑戦中です。「挑戦者1」はまさにそんな気持ちが込められた作品だと思います。これが鼻で、これが目です、とすぐに理解できるものではなく、渾沌としたなかにぼんやりと浮かび上がるような、鑑賞者が自分の感性や想像力を駆使して楽しめるような、そんな雰囲気を目指しています。それから文章を書くことが大好きなので、近い将来、自分の言葉と絵を組み合わせた、詩画集などを作ることが出来たら素敵だなと思っています。

絵本:マルテの冒険
主人が文章を書き、それに私が絵を付けるような形で、友人たちと作った紙芝居を元に、絵本「マルテの冒険」が出来ました。主人公である猫のマルテ(今年5月、人間の年にすれば100歳という長寿を全うし、天国へ昇りました。)を始め、マルテを一番可愛がっていた主人、それから2人の息子たち、登場人物は皆家族です。夫婦合作という形で、私たち家族を癒し続けてくれたマルテの物語を作ることが出来てとても嬉しく思っています。
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〜顔は、すごい〜との自身の言葉のように、5年前から意欲的に取り組んでいる”顔”シリーズ。人間の顔や表情が物語る人生を、深い愛情と澄み切った眼差しで描き出します。作品一覧
旅で得たもの \21,000
良く見ると背景にはビルディングが隠され、異国の空に輝く太陽のようにも見える和紙の素材感が対照的に際立っている。観るたびに時空を超えた旅へと誘ってくれるような一枚。

挑戦者 \84,000
タイトル通り、自身が挑戦者となり新しい作風に挑戦した最初の作品。最後に鉛筆でアウトラインを取っている。抑制の効いた絶妙な色合い、古代の壁画を彷佛とさせるような独特な雰囲気を持つ一枚。

威厳 \630,000
「顔はすごい」と自身の言葉のように、顔が物語る人生。天使と悪魔、情熱と孤独、興奮と倦怠、複雑で繊細でとらえどころのない人の心を、深い愛情と澄み切った眼差しで描いた一枚。

マルテの冒険/絵本
尾崎夫妻合作絵本。実際に飼っていた猫のマルテを主人公にした、こころ温まるお話。紙芝居として制作されたものを絵本化。

現代日本の抽象 vol.1/年鑑
159名のアーティストの豊かで奔放な発想の抽象作品を収載。絵画・版画・彫刻・染色などの作品をコメント・プロフィールと共に掲載。

尾崎さんは、文章を書くのがお好きとのことで、その一部を読ませて頂きましたが、どれも素晴らいものでした。また、作品のタイトルも常に哲学的・思索的、かつ情熱的です。多くは語らず飾らないお人柄で、人間や社会の現状をまっすぐ見つめ、深い思考と穏やかな愛情で、ひたむきに絵を描き続けていらっしゃる姿が印象的でした。今後も、様々な表現方法に挑戦して行きたいそうです、今後のご活躍を多いに期待しています。

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